トランプ大統領、アメリカのパリ協定離脱発表の背景とそのナンセンスさ、そして今後は……

 トランプ大統領は、1日、アメリカがパリ協定からの離脱を発表した。

 「アメリカ第一主義」をかまえ、就任以来、ことごとく国際協調に背を向ける姿勢で、パリ協定離脱も大統領選の公約だったから、意外感はない。

 しかし残念、である。

◎スターリニスト中国さえ参加したのに

 アメリカは二酸化炭素排出量で世界2位で、世界全体の排出量のうち15.8%を占める。

 スターリニスト中国が世界全体の28.3%とダントツの排出量で地球を汚し続けているが、さしもの習近平もパリ協定では削減義務に同意し、協定に署名した。京都議定書では排出量の削減義務を免れていたが、スターリニストでさえ地球の環境保護に向かい合う姿勢を示したのだ。

 それがトランプ氏は、地球環境に関心を示さず、責任を果たそうともしない。愚か、というしかないし、極めて近視眼的である。

◎支持基盤のプアーホワイトへの配慮

 トランプ氏のアメリカ第一主義は、TPPでも同じだった。

 根にあるのは、自分を大統領に押し上げてくれた北東部のプアーホワイトへの配慮である。

 TPPでは、ラストベルトを主としたアメリカ人の雇用を守る、というものだったが、パリ協定の離脱は、ウェストバージニアオハイオペンシルベニアなどの石炭生産地への配慮である。

 二酸化炭素排出量が天然ガスの倍も多い石炭は、パリ協定実行となると、アメリカでまず息の根を止められる。産炭地を中心に、労働者の雇用不安は大きい。

◎石炭はコスト的にも合わないので、脱石炭は不可避

 しかしトランプ氏の配慮は、実は的外れ、でもある。

 石炭の使用が最も多いのは、火力発電所向けだが、アメリカの発電会社は、経済合理性からどんどん石炭火力発電所を閉鎖し、天然ガス発電所に切り替えているのだ。彼らは、少しは環境配慮はあるが、天然ガス発電所に切り替えているのは、シェールガスの産出増で、天然ガス価格がかつての4分の1にも下落し、天然ガス使用による発電コストが劇的に切り下がり、価格競争力で優位に立っているからだ。

 だから、トランプ氏がパリ協定にどう抗おうと、どのみちアメリカの石炭産業(そしていずれは世界各国の石炭産業も)は立ち枯れていく運命にある(16年6月18日付日記:「石油時代の黄昏、脱炭素化へと向かう社会でハイブリッド車も走れなくなる?;環境、エネルギー経済」を参照)。

 石油に頼るというエネルギー革命で、日本やイギリスがいち早く全炭鉱を閉鎖したように、アメリカもその運命から逃れることはできない。

◎イバンカ・クシュナー夫妻、ティラーソン国務長官マティス国防長官は残留支持

 ただトランプ氏がパリ協定離脱の発表にここまで時間がかかったのは、先だってのG7に代表されるように、EU諸国などからずっと懸念を表明されて、離脱を思い留まるように説得されていたからだ。

 また政権内も、離脱の1枚岩ではなかった。

 特にトランプ氏が全幅の信頼を置く、娘のイバンカさんとその夫で、「陰のナンデモ補佐官」のジャレッド・クシュナー上級顧問、それに外交を仕切るレックス・ティラーソン国務長官、国防の責任者ジェイムズ・マティス国防長官はいずれも、パリ協定残留を支持していた。

◎アメリカの国際的地位の低下を憂えた良識派

 ティラーソン氏はアメリカがパリ協定を離脱することでアメリカの国際的地位と威信に傷がつくことを恐れ、マティス氏もまたアメリカの国際的地位の低下が国防力を弱めることを懸念していたからだが、いずれも知識人だけに個人としてもパリ協定の意義は理解していたはずだ。

 イバンカさんも常識人として、政権移行期間に父親のトランプ氏と温暖化対策活動家として有名なアル・ゴア元副大統領との会談のセッティングしたほど、環境リテラシーはある。夫のクシュナー氏も同様だろう。

◎バノン首席戦略官の復権

 それでも反対論を退け、トランプ氏が離脱に踏み切ったのは、ワシントンの一部に弾劾論まで出始めた「ロシアゲート」から免れる一助に、国内の温暖化懐疑論者の支持を当て込んだのだろう。また大統領選の公約へのこだわりもあったに違いない。

 しかし最も注目すべきは、一時は失脚論さえ出ていたスティーブン・バノン首席戦略官・大統領上級顧問が復権したことだ。バノン氏は、ずっと強硬にパリ協定離脱をトランプ氏に言い続けてきた人物だ。

 今回、トランプ氏が政権内離脱反対派を振り切り、離脱に踏み切ったのは、バノン氏に組みしたことを示す。当然、バノン氏の政権内での地位は上がる。トランプ政権内で、微妙なパワーバランスの変化があったことは興味深い。

◎離脱の効力は2年半後

 ただ救いは、今回のトランプ氏の離脱発表があっても、すぐには離脱の効力が生まれないことだ。

 パリ協定の発効は、昨年の11月4日だった。離脱するには、この3年後の2019年同日に初めて通告できる。さらに実際に離脱できるのはその1年後である。奇しくも2020年11月4日は、次の大統領選挙の投票日翌日。この時に、トランプ氏はもう政治の表舞台にいないかもしれない。

 ただ途上国の温暖化対策として約束した国連の「緑の気候基金(グリーン・クライメート・ファンド)」への拠出金30億ドルも即座に停止される。

 地球温暖化阻止の闘いが、一時的にでも遅滞する恐れが強まった。

昨年の今日の日記:休載