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治療の選択肢が増えるのは喜ばしい

加藤さくら・福山型先天性筋ジストロフィー患者家族、親業インストラクター

加藤さくら(かとう・さくら) 英会話スクール勤務を経て結婚。2007年に長女出産。2010年に次女出産、遺伝性の難病と診断される。2014年、家族とともに次女の難病を受け入れて生きる姿を追ったドキュメンタリー映画えがおのローソク』が全国で自主上映され、反響を呼ぶ。著書に『えがおの宝物』(2015年)がある。(撮影:八尋伸)

私には、遺伝性の難病を持って生まれた娘がいます。病名は「福山型先天性筋ジストロフィー」。しだいに筋力が衰えていく進行性の病気です。症状は個人差がありますが、自身で立つことや歩行を獲得するケースは極めて稀で、脳の障害も伴います。現時点で治療法はありません。

現在7歳の次女・真心(まこ)は、生後6カ月で「福山型先天性筋ジストロフィー」と診断されました。この病気はフクチンというタンパク質を生み出す遺伝子の変異が原因です。両親が二人とも変異した遺伝子を持ち、なおかつ父母両方からその遺伝子を受け継ぐことで発症します。私たち夫婦は、偶然にもこの変異を一つだけ持つ保因者でした。私たちのようなカップルから生まれる子どもが福山型になる確率は4分の1と言われています。

二人とも保因者であるとわかっていて、新たに子どもを望む場合、ほとんどのカップルが受精卵の遺伝子異常の有無を調べる出生前診断を受けています。異常がわかった場合の選択肢は2つ。宿った命を諦めるか、すべてを受け入れた上で産み育てるか。そんな重い決断を、私たち親はいつも委ねられているのです。

私は遺伝性難病の子を持つ親として、もしゲノム編集によって「受精卵の時点で治療する」という選択肢が増えるのなら、それは率直に喜ばしいことだと受け止めています。私の夫も同じ意見です。もちろん副作用などの怖さはありますし、治療の安全性が確実に証明されることが大前提ですが、もしゲノム編集が有効な治療技術であるなら、正しく研究を進めてほしい。そのためには、恩恵を受ける可能性のある私たちがもっと声をあげ、是非をめぐる議論に参加していくべきだとも感じています。

ただ、親としてこうも考えるのです。福山型の起源は、元をたどれば一人の弥生人に起きた遺伝子の突然変異といわれています。そして数千年もの間、その変異は淘汰されず、今に受け継がれている。事実、真心も病気を抱えながらこの世に生を受けました。その理由が解明されないまま、病気は都合が悪いものだからと排除するのは、人類にとってベストな答えなのか……。

病気を抱える娘を、全力で肯定したいと語る加藤氏(撮影:八尋伸)

真心は、今日も彼女なりのかけがえのない生命を生きています。病気さえ自身のアイデンティティの一部として受け入れているかのように、毎日最高の笑顔を見せてくれます。

「健康な体に産んであげたかった」と思わないかといえば嘘になります。一方で、病気を抱える真心を全力で肯定したい。矛盾した思いではありますが、それが親としての気持ちです。

ゲノム編集技術によって取りうる選択肢が増えたとしても、その結果を引き受けるのは、私たち親です。ならば、まずはどんな事情を抱えた家族でも幸せに暮らせる、多様性を尊重する社会になってほしい。当事者たちのいかなる決断もあたたかく見守り、支える社会になることを切に願っています。

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https://news.yahoo.co.jp/feature/603