楽園の女の子。

子供たちが小学生時代の夏休み、ある日のお昼前に玄関チャイムが鳴った。

覗き穴には見知らぬ女の子が映っていた。

迷子かと思い、少しドアを開けると、高学年くらいの女の子が立っていて、唐突に、

「楽園があるのを知ってますか?」

「え?」

「楽園があるんです」

そう言いながら、楽園らしき絵の描かれたパンフレットを広げて見せてきた。

宗教の勧誘だと解った。

もっとドアを開けたら、女性が立っていて、私を見ること無く、女の子を見守っていた。

子供に勧誘させるのが修行だかなんだか知らないけど、小さいうちから刷り込み洗脳をする行為に腹が立った。

女性に文句を言おうと思ったけど、信仰の厚い人には水掛け論、疲れるだけと思い直し、女の子に話しかけた。

「この絵が楽園なの? こんなとこが楽園なの? 全然楽園に見えないよ? あなたはこの絵が楽園に見えるの?」

女の子は黙って絵を見つめ、女性は女の子を見守ったまま動かない。私は続けた。

「おばちゃんには楽園があるよ。家族と暮らすこのお家が楽園だよ。とっても幸せだから、ここ以外の楽園は要らないの。あなたは家族と暮らすお家が無いの? あるでしょ。そこが一番の楽園じゃないかなと、おばちゃんは思うよ」

すると、女の子が女性を見、女性が小さく頷いた。

そして、女の子だけが「ありがとうございました」と言い、側の女性は何の挨拶も無く去っていった。

テレビでヒンドゥー教徒の大沐浴がやっていた。

インドの医師一族のドキュメント。

代々、毎年、沐浴をしている。

でも、父親と同じく医師として働く長男は神を信じない。

それを親兄弟、一族もみな、強引に諭そうとはしない。

だけど、みな仲良しで朗らかな家族。

長男も沐浴には同行するけど、川遊びをしてるだけ。

沐浴を終えた兄弟たちとふざけあって。

信仰の厚い者が「神を信じない」と言われたら、むきになりそうだけど、みんな「仕方がない」って顔で笑ってる。

熱心なヒンドゥー教徒だけど、宗教で繋がるのでなく、家族愛で繋がっている。

それを観ながら、楽園の女の子を思い出していた。

広告を非表示にする